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妙香山幽霊ホテル・・・



ホテルについた    

特級に分類される最高級ホテル妙香山ホテルに泊まった。
巨大建築目白押しの北朝鮮国内で特級をはるだけあって外観が凄い。
上から見ると三菱マーク、横から見るとピラミッド型に見える15階建て。
異様に広いロビーは吹き抜けで、4〜5階くらいの高さがあり、フロント横には人工の渓谷と滝がしつらえてある。  

どうも、妙香山ホテルです (*写真右 翌朝に撮った妙香山ホテルの写真)

そのホテルに足を踏み入れた。水を打ったような静けさである。
遠くの方に全くやる気のないフロントが薄明かりの中に立っていた。
静けさと暗さのせいで余計に広々と見えるロビーには、他に人の影は全くなかった。

「こわー」と内心思いながらふかふかの赤い絨毯の上を歩く。
ガイドの二人が鍵を受け取って部屋まで案内してくれるといった。
自分たちで部屋くらい探せるし、そろそろ農沢君としたいヒソヒソ話もたまっていたが、こ こはガイドの好意を受けることにした。  

705号室。何台もあるエレベーターの中で唯一電源の入っていたものに乗って7階のボタンを押した。
何やら音がして、エレベーターは上昇を始めた。「動くじゃないか」と感心する間もなく7階に到着、扉が開いた。
扉の向こうを見て驚いた、はじめて北朝鮮に来たことを実感した。
つまりは真っ暗だった。薄暗いどころではない。
非常灯など気の利いたものはなく、

自分の指も見えないくらいの暗さだった。

「電気をつけてないようですね」
平然とガイドがいうのを聞きながら、無事に帰れることを仏陀に祈った。
手探りで廊下を進み なんとか部屋に入って点けた電灯の明るかったこと、なんとありがたかったこと。

「すぐに食事ですから、あと20分ほどしたら下りてきて下さい。」
ガイドの2人はそう言い残してまた手探りでエレベーターの方に消えていった。

「こわいよ、こわいよ農沢君・・・」

「こわい、こわいですね森本さん・・・」

20分後、ガイドの通達で明かりを付けてくれたらしい廊下を渡ってロビーに下りた。
案内されたレストランは2階、吹き抜けになっているロビーに面した場所にあった。
ガラーンと広い宴会場のような雰囲気のテーブルに座る。
内装は白以外にほとんど色がない。連れていかれたのはやや大きめの円卓、
しかしテーブルの上には2人分のセットしかなかった。
我々と2人のガイド、それに運転手の5人で食べるものと思い込んでいたので少し驚いた。

「私たちは向こうに別のレストランがありますから、ではごゆっくり」
私のいぶかしげな表情を見据えたように金さんが言った。
料理については後述するが、玉流館というレストランで冷麺を食べたときと、最後の晩に開いてくれた焼き肉パーティ以外 ガイドは決して私たちの食事に同席しようとはしなかった。  

その後、少しホテル内を散歩してみたが、
ガイドさんの言った方向にレストランらしいものは見あたらなかった

「ガイドの方々は、どんなものをお召し上がりになられているんですか?」
食事毎に聞いてみたがその都度上手くごまかされて、うやむやにされてしまった。
きっとガイドにまで食べさせる料理はなかったんだと思う。
きっとろくな物は食べてなかったろう。  

基本的に冷えたあまり美味しくも不味くもない料理を食べる。
それより何より、BGMも何もないだだっ広い空間で、たった二人冷めた料理を口に運ぶ寂しさが身にしみた。

「カシャッ」 「カチャーン」 自分が何気なく置いたフォークの音が深々と拡がってゆき、そのたびにビクッとする。
途中、中国か台湾系と思われる一家がレストランに入ってきたが、4〜5人の大人数で羨ましかった。

「森本さん、ここに一人で来るつもりだったんですか?」

「ああ、でも俺一人で来てたら、泣いてたやろな・・・」

「はい、そうでしょうね・・・」   

食事を終えて部屋に戻り、農沢君と今日一日の話をした。
「早見 優を覚えてますか?」と農沢君が聞いてきた。
覚えている、といっても本人ではない。この日、移動中にしばらく車を止めている時間があって その時に車のそばでずっと人待ちをしていた軍服姿の美人のことである。
時々見せる少しイライラした表情を見て、私が怪訝な顔をしていると、金さんは
「きっとデートの待ち合わせをしているんでしょう」と軽く言ってのけた。

この国にデートをする自由があることに驚き、そして何より「早見 優に似てるな・・・」と いった私の独り言に「ええ、よく似てますね」と即座に金さんが返したことに驚いた。
何やら昔、雑誌で見たことがあるらしい。私は、こんなやりとりが印象的だったので大変よく覚えていた。
「それがどうしたの?」と聞き返すと

「今日一日で、一般市民が僕達に表情を見せたのはあの娘だけなんですよ」 という答えが戻ってきた。  

確かにそうかもしれない。15分ほどの停車中、ずっと彼女を見続け、
去り際にダメもとで手を振ってみた。 すると、数メートルしか離れない私とホンの一瞬だけ目が合い、そこにはあからさまな嫌悪が映っていた。
名所に配置された現地ガイドやウェイトレスとは会話までしたが、たくさんすれ違った一般市民は誰も 我々と目を合わすこともなかったし、声すら聞いたことがなかった。
そのことに気づくと、言い様のない恐怖がじわじわと心に襲ってきた。  

気分転換にとテラスに出てまた驚いた。
15階建ての超一流ホテル228室のうちで、窓に明かりが灯っていたのは我々の部屋、 男のガイドと運転手の部屋、女性ガイドの金さんの部屋の3つと他に2つだけだった。
白っぽい満月が妙に冷たく見えた。隣に来た農沢君が、しばしの沈黙を破るように言った。

「そら親も反対するわ・・・」 

蛇足だが、農沢君は無事戻ってきた今日の日でも、北朝鮮に行ったことは親に内緒にしているそうだ。



  

盗聴器探し・・・  

亡命者の話によると、共和国内で外国人の泊まるホテルには全て盗聴器がついていて、国際電話も100 パーセント盗聴されているらしい。余談だが、社会党議員代表団が訪朝した際に、視察をおえて部屋にもど ると荷物が何者かにバラバラにされて勝手に調べられていたそうだ。  

こんな状態ではこの国の悪口さえ言えない。
そこで私の提案により、二人で盗聴器探しをすることにした。
ベッドの下、テレビの裏、コンセント、洗面所、排気口などを探したが、
やはり素人に見つけられるわけがない。
するとその時 
「森本さん、伏せて下さい!!!」
小さい声だが鋭い口調で農沢君が言った。
とっさに伏せて農沢君のそばににじり寄った。「ど・う・し・た・の?」と小声で聴く。
「あれです、あれ、見られてますよ!」そう言った彼が指した指の先には、
直径1ミリくらいの画鋲の穴があった。  

馬鹿げてると思われるかもしれないが、私は私で ベッドの上に備え付けてあるラジオに

「おい!! お前きいとるやろ!! こら!!! 分かってんねんぞ!!! おい、聞くな!! こら!!」
とひとり格闘していた。





   







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初版:2001年11月31日、