最後の部屋にあったもの・・・
「さあ、ここで最後です」
と突然 金さんがひときわ立派な部屋の前で立ち止まった。
「ここには、中国人民より贈られた”そのままの金日成主席”がおられます。いいですか、写真は絶対に駄目です。
声を出したり、手を挙げたりしてもいけません。では、参りましょう」
厳かな雰囲気のなか、部屋に足を踏み入れた。
ただ事でないガイドの態度に、こちらまで緊張しておずおずと顔を上げると、
60畳ほどの部屋の向こう半分に色とりどりのお花畑がこさえてあり、
生きているとしか思えないほど
血色の良い
スーツ姿の金日成が
ポケーっと立っていた・・・
「さあ、森本さん。頭をさげて下さい」
金さんは静かに、けれど抗いようのない声でそう言った。
彼女とミンさんは、主席に失礼でない距離をとって熱心に拝みはじめた。
ところが
「実物大の生きているとしか思えない金日成」と
「ガイドのまじめくさった顔」と
「色とりどりのお花畑」
の三者が渾然一体となって私に襲いかかってきた。
まじめに頭をさげているガイドの前で、笑ってはいけないと思えば思うほど こみ上げてくる笑いをこらえることが出来ない。
「スーツ姿の金日成がお花畑で立ちつくしている理由」
など考えてしまうともういけない。
ノグソだろうか、逢引きだろうか、はたまた駆け落ち(亡命)だろうか。
心の中に湧き上がる想像が止まらない。破顔一笑、崩れた顔を絶対に見せるまいと、両手を前に合わせて深々と頭をさげることで隠し、
小刻みに揺れる背中は、感激して泣いている振りをすることによってごまかした。
笑ってはいけないと思えば思うほど笑いは止まらず、その都度何度も何度も頭を下げている私を見て、
金さんは後にこう言った。
「日本からこんな時に、若い人が来るっていうんで、実は私森本さんと話で闘おうと思っていたんですよ。
でも今日 一生懸命見学され、主席の前でずっと頭を下げておられるのを見て考えが変わりました」
この事があってから金さんと我々の距離がぐっと縮まった。まったく人生なにが幸いするか分からない。
で、こんな経験を人様にお話しても、
緊張感が違うので、なかなか面白くないのだと思います。
下の写真は、お土産に買ってきた北朝鮮発行の切手
息子の金正日総書記と映っていることを除けば
私がみた「生きたまま」の金日成とほぼ同じです。
すいませんが、
この写真に頭を下げてください
いいですか、
声を出したり、
手をあげたりしてはいけません。
・・・お後がよろしいようで
〜北朝鮮旅日記(後編)〜
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