最後の晩餐
焼き肉パーティー・・・
最終日の夜は焼き肉パーティーだというので、楽しみにしていた。
夕暮れの中、会場目指して、車は山の中に入っていった。
途中、中規模の遊園地があった。
乗り物が動いていなかったのは遅い時間のせいなのかどうかは知らない。
どんどん山の中に入り、ついに日が沈んだ。
十分後、外灯も何もない真っ暗な広場に着いた。
金さんとミンさんが何やら相談している。20分待っても何も起こらなかった。
「おかしいですね、ここで約束したのに・・・」
この”おかしいですね”はもう聞き飽きていたが、約束というのは (”誰”と”何”をやねん!!!)
と心の中で叫んだ。
万が一にと車で移動した第2予定地(ここも灯り無し)にバンが一台止まってあった。
テーブルが前に置かれている。どうやらここで食べるらしい。
(*写真右 最後の晩餐はご馳走がならんだ)
バンの中から出てきたコックのおっちゃんと若い娘さんがテキパキと動き始めた。
しかし、真っ暗でテーブルの上は何も見えない
。
運ちゃんが車を移動させて、ヘッドライトの明かりで晩餐が始まった。
焼き肉は”鹿の肉とアヒルの肉”
とのことで、何故これを選んだのかは知らないが、結構美味しかった。
真横からヘッドライトを当てているため、一段高いところにあるコンロの上に灯りはまったく届かなかった。肉片を箸でつまんでは、何度も車のヘッドライトで透かせてみた。
焼けているか焼けていないか、まったく分からない恐ろしさが妙なスパイスとなった
焼き肉以外にも、ポン菓子やら、おかきやら、キュウリとトマトのサラダやらビール、
鹿の角酒、チシャ(肉を包んで食べる レタスのような野菜)、ご飯、キムチみそ汁、
などなどテーブルには食べきれないほどのご馳走が並んだ。
金さんミンさん、運ちゃんも同席して酒宴が始まり 話が弾んだ。
ミンさんは
「森本さん、次にこられたら虎の焼き肉
をしましょう。少し高いですけど、特別注文にありますよ。
私は前に、日本のお客さんと虎の肉を食べましたよ」
真偽のほどは確かでないが、若い男性ガイドのミンさんの自慢癖は最後の夜も直らないようだった。
そして、挨拶の時
「共和国はマイナスのイメージが多かったですけど、
今回の旅でたくさんの素晴らしいものに出会えて、心から満足しています」
という私の言葉に、金さんはたいそう喜んだ。
会話中に私の家族の話になり、天涯孤独の身であると言うと、金さんはとても心配してくれた。
あまりにも心配そうなので、 「共和国では珍しいことではないんじゃないですか?」
と皮肉を言うと、「日本では珍しいんでしょう?」
と返された。
金さんは翌日出発の前も
「森本さんがそんな境遇だと知っていれば、もっと一生懸命サービス出来たかもしれないのに・・・」
としきりに残念がった。そんな些細なことからも、朝鮮民族は本当に血のつながりを大事にしているらしいことが伺えた。
宴席が盛り上がったとき、無口な運ちゃんが私の側にウェイトレスを連れてきた。 「彼女が森本さんのことを好きになったみたいですよ」
とミンさんが囃し立てた。
聞けば、24になるその女の子は独身で、実は運ちゃんの娘だそうな。
みんな、冗談と軽いのりで囃し立てた。 「どうですか? 彼女と婚約したら」
と金さんまで勧めてきた。
運ちゃんは笑顔で”くっつけ くっつけ”と合図する。笑いながら「じゃ婚約しましょう」
と言って、肩を抱いて写真を撮った。
楽しい宴の後、帰りの車の中でふと「彼女と結婚してもいいな」と思った。
別に彼女に興味があったわけではない。
私は人生の中で、籍とか血縁とかに嫌な思いばかりしてきた。
どうせだれも欲しがらない人民兵の籍を誰かにあげることなど屁とも思っていなかった。
「もし、俺の”籍”に彼女が入って、その結果 日本でバイトくらい出来たら北朝鮮にいる家族、親戚がどんなに助かることだろう」
と思った。
そう思うことが経済的発展途上国に対する傲慢なのは分かっているつもりだ。
ただ、その時私は半ば真剣にそう思った。それに、もしかして、
この国にまた遊びに来れるかもしれないではないか
「ねえ、金さん。もし彼女が僕と結婚したら、彼女は日本に来れますか?」
「それは無理でしょうね」
「では、僕が日本と共和国を自由に行き来したりなんて・・・」
「ムズカシイですね」
「・・・・・・」
俺は心の中で叫んだ。
「 イミ・ナイジャン!!!」
〜北朝鮮旅日記続続続々編〜
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